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ちいさこべ
ちいさこべ
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1957(昭和32)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,480 字 · 67 页
と茂次は云った、「自火なら手がうしろへまわるところだ」
そして「魚万」を訪ねた。これは通りの向うの仮小屋で、幸い焼けずに残っていたが、茂次は万兵衛に会って、すぐ再普請にかかると云った。藤造の脇にいた大六と助二郎は、あっという顔で茂次を見たし、万兵衛も意外だったらしく、それはちょっと無理ではないか、と云いかけたが、茂次は大丈夫やると、あっさり云った。
「但し一つお願いがあります」と茂次は続けた、「正直に云いますが、これまで手いっぱいにやって来ましたから、材料を吟味するゆとりがありません、大留が立ち直ったら、改めて普請を仕直すということにして、お気にいらないところがあっても、こんどは眼をつぶってもらいたいんです」
「私のほうはむろんそれでいいが」と万兵衛はまだ信じきれないようすで云った、「しかし本当にむりじゃあないのかい」
茂次はそれには答えずに、「お願いします」と云った。
うちへ帰る途中、大六たちはなにか囁きあっていたが、帰るなり、三人で「話がある」ときりだした。茂次は聞くまでもない、よけいなことは云うなと云った。だが、三人は再普請が不可能なことを、代る代る主張した。