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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页
帯刀は一種のもどかしさと、深い感動の気持の中でそう思った。
「小一郎に返事を書いてくれ」と帯刀は話を変えて云った、「必ず返事を貰って来ると約束をさせられたんだ、頼むぞ」
「今夜のうちに書こう」と隼人は頷いた。
「それから、――これはよけいなことかもしれないが、西沢には注意するほうがいいな」
「その名を口にしないでくれ」
「いや、朝田さんにしたことを考えても、どんな卑劣なまねをするかしれないやつだから、それを忘れないように頼むというんだ」
「わかった」と隼人が云った、「しかしいまの名は二度と口にしないでくれ、ここでは勿論、城下へ戻ってからもだ」
「よし」と帯刀は頷いた。
城下へ帰った帯刀から、七日ほど経って知らせがあり、隣藩の了解を得たから、土を運ぶがよいと云って来た。こんどは道もよいし距離も近いので、ずっと楽だし仕事もはかどり、雪の来るまでに約二反歩ほど土を入れることができた。――けれども、住民たちにはなんの変化もみられなかった。自分たちの肩で土を運び、僅かではあるが自分たちの耕地が出来た。来年も土を運べば耕地はもっと殖えるだろう。それはかれら自身のものであり、かれら自身で作物が作れるのである。