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はたしじょう

はたし状

山本 周五郎

「週刊朝日 新年増刊」朝日新聞社、1951(昭和26)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,525 字 · 39 页

青空文庫

理由はもちろん一つしかない、藤島としのとの問題に触れたくないからだ。話はきっとそこへゆくだろうし、手紙にもその事が書いてあるだろう――初めの一通がそうであった――第二にはそれは耐えられなかった、かれら二人については古い想い出さえ厭わしかった。もっと時間が経って、傷がまったく癒え、気持がすっかり平静になるまでは、少しでも二人を連想させることは絶対に避けたかったのである。

知人に会いたくないので、城へも安土門から出入りした。御文庫は松の丸と呼ばれる二の曲輪にあって、そこからは少しまわらなければならないが、大手や乾門のように知友に会う心配は殆んどなかった。

千久馬はそれに気づいたのだろう、その日、下城して門を出たところでうしろから追いついて来た。

「あんなに呼んだのに聞えなかったのかね」

激しい息をしながら、千久馬は肩を並べて歩きだした。

「いやわかってる、なにも云わなくてもいいよ」彼は第二を遮って云った、「――誰にも会いたくない気持はわかってるんだ、頑強なのには驚いたけれど、……でもおれにはよくわかっていたんだよ」

「まことに済まないが」

第二は低い声で呟くように云った。