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へちまのき

へちまの木

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1966(昭和41)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,120 字 · 58 页

青空文庫

と呟き、掻巻の中へ顔を隠した。

どうして自分の部屋へはいったか、房二郎にはまったく覚えがなかった。肩をゆすられて眼をさますと、枕許におるいがいて、湯呑茶碗を彼にすすめた。

「これを飲んで」とおるいは云った、「いやだろうけれど、宿酔には迎え酒がいちばんきくんですって、鼻を摘んでもいいから飲んでごらんなさい」

房二郎は起き直って、その湯呑を受取ったが、燗をした酒の匂いを嗅ぐなり、胸がむかむかし、危なく嘔吐しそうになったので、顔をそむけながらおるいに返した。

「それじゃあ今日は休んでゆっくり寝ていらっしゃい」

「そうします」房二郎は横になりながら云った、「誰か人を頼んで文華堂へそう届けさせてくれませんか」

「いいじゃないの、そんなこと」おるいは掛け夜具を直してやりながら云った、「あんないやらしいお店なんかやめておしまいなさいよ」

「やめてどうします」

「ゆうべは乞食になればよかったって仰しゃってたわ」とおるいが云った、「その気にさえなれば、あなたはなにをなすっても、きっと人の頭に立つ仕事をものになさるわ」

「そんな者にはなりたくないな、山へでもはいっちまいたいよ」

「なに云ってるの、まだ世の中を覗いたばかりの若いくせに、さあひと眠りなさい」