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へちまのき
へちまの木
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1966(昭和41)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,120 字 · 58 页
おるいはそのようすをたのしげに見ていて、お味が薄かったかしら、ときいた。
「わからないな、なにしろ粥なんて、覚えてから初めて喰べたんでね」と房二郎は茶碗を置きながら云った、「しかしうまかったよ」
「よかったわ、それだけあがれば大丈夫よ」おるいはゆきひらや茶碗を盆に移しながら、その代りに燗徳利と盃と、肴の小皿を二つ膳へのせた、「でも気をつけてね、やけになって、飲みたくもないのに飲んだりしてはだめですよ」
「おれが叱られてるみてえだな」と木内は首をすくめて云った。
おるいが去ると、房二郎は手酌で酒を一杯注ぎ、飲もうとはせずに、さあ聞こう、と緊張した顔つきで云った。
「話してもむだなんだがな」木内は酒を啜って云った、「いや、話すほうが諦めがつくかもしれねえな、云っちまおう、――記事のたねを金にするというのはな、古い手だがゆすりなんだ」
「ゆすりだって」
「金持のうちの内情をあばいて、これこれの記事を瓦版にして売り出すんだが、お宅の名を書かなければならないので、あらかじめお知らせをしに来た、ともちかけるんだ」と木内は云った、「大店や金持ともなれば、世間に知られたくないようなないしょ事が、二つや三つはあるもんだ、金で済むことなら世間に恥をさらすことはねえからな、その記事を買いましょう、ということになるわけさ」