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へちまのき

へちまの木

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1966(昭和41)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,120 字 · 58 页

青空文庫

「人さまざまさ」と木内桜谷が云った、「桜所は桜所で、やっぱり生きていかなくちゃならねえからな、それに、――いま桜所の云ったことは間違っちゃあいねえ、おまえさんは気を悪くするかもしれねえが、こういう仕事は、もともとまともなものじゃあない、世間を騙して売っちまえばいいというしろものだ、そのくらいの写し物は二日か三日で片づける、つまりすぐ反故になるというつもりでやらなければだめなものなんだよ」

「それが人間の仕事だろうか」

「それが世間というものさ」木内はにやっと笑った、「もういちど云うが」

「わかったよ」房二郎は首を振って遮った、「沢茂で初めてあんたに会い、この文華堂へ入れて貰ったときに、その覚悟はしていたんだ、けれどもこういう中でだって、少しはまともな仕事ができるんじゃないか、いや、こういう世界でこそ、まともな仕事をしなくちゃあいけないんじゃあないか、と思ったんだ」

「世の中はそうあまいもんじゃあない、っていうことがわかったわけだ」

「かなしいな」と云って、房二郎は両手で顔を押えた、「だんだん自信がなくなってきたけれど、なろうことなら記事屋になるつもりだから、どんなことにも慣れることにするよ」