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めおとちょう

めおと蝶

山本 周五郎

「講談倶楽部 春の臨時増刊号」大日本雄弁会講談社、1950(昭和25)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,977 字 · 47 页

青空文庫

六

蒼白く頬がむくんで、すっかり顔つきが変っていた。――彼は飢えているのだろう、熱いので顔を歪めながら雑炊を啜り、こちらは見ずに低い声でせかせかと話した。

暗殺計画などではない、井巻国老と腹心の重臣数名が、青井川の改修工事をめぐって、かなり大掛りな涜職をしている。そのほかにも年貢収納の関係で大地主たちと不正の事実がだいぶあった。それを摘発して政治の粛正を計っていたところ、どこからか漏れて、かれらから先手を打たれ、暗殺の謀計ということに糊塗されたのだという。

「こうなれば喧嘩ですよ、却ってさっぱりしました、ここに調書を持ってますからね」知也は腹帯と思えるあたりを叩き、にっと笑いながら云った、「――警戒がゆるんだら脱出して江戸へゆきます、一藩のためですから、御迷惑だろうがお願いします」

そして初めて信乃のほうへ眼をあげた。

六

三日ばかり良人は家へ寄りつかなかった。

信乃は必要なときは甲之助を伴れて来て、自分の居間で遊ばせた。そんなところへ良平がとつぜん帰ったりしたが、彼はべつになにも云わず、食事をしたり着替えをしたりして、すぐにまた出ていった。……妹が来たのは五日めのことである。