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やぶからし
やぶからし
山本 周五郎
「週刊朝日増刊」朝日新聞社、1959(昭和34)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,476 字 · 44 页
こうして第二夜は無事に過ぎた。この藩では武家は里帰りをしない風習である。よし里帰りがゆるされていたとしても、わたくしは薙町へ帰る気持はなかった。こう云うと恩知らずで薄情のように聞えるかもしれないが、薙町の家族もわたくしの帰るのをよろこびはしない。それは平生からわかっていたことだし、輿入れのときにもはっきり云われていたのである。
――今夜はどうなるだろう。
わたくしの頭はその心配でいっぱいだった。祝言の夜のほかは寝所をべつにしてよいというので、第三夜も自分の部屋で寝た。おかあさまはなにか勘づいたとみえ、あの方の寝間の支度を女中にさせたうえ、ねむかったら先におやすみ、と仰しゃった。その日もあの方は外出をして、夜になっても戻らず、わたくしはおそくまで、おかあさまのお部屋で話し更かした。
自分の部屋へ帰って、夜具の中へはいったのは十一時過ぎだったであろう。ゆうべとは違ってすっかり眼が冴えてしまい、来光寺の鐘が九つ(午前零時)を打つのを聞いた。そしてまもなく、あの方が帰って来た。庭からまわって、自分の部屋の窓からはいったらしい。忍びやかなその音を聞いたとき、わたくしはぞっと総毛立ち、われ知らずはね起きると、箪笥から懐剣を取り出し、それを持って、寝衣のまま夜具の上に正座した。