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やぶからし
やぶからし
山本 周五郎
「週刊朝日増刊」朝日新聞社、1959(昭和34)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,476 字 · 44 页
「よしよし、父上には私があやまる」良人はとめに云った、「おまえは心配しなくともいいから黙っておいで」
わたくしはとめからそのことを聞いて、「それでいいだろう」とは答えたが、心の中では納得しなかった。
――あやまちはあやまちである。
とめの過失はとめの責任であるし、その責任を負うことが躾けというものではないか。たとえ劬りにもせよ、事実をごまかすのは正しいことではない、とわたくしは思った。これも数年のちには、自分の考えかたがかたくなであり、人間同志の愛情や信頼感を高めるには、良人のようでなくてはならない、と思い当るようになったのだけれど。
松之助が生れてまもなく、おとうさまの職はそのままで、良人が書院番にあげられた。重職がたがまえから眼をつけていたそうで、おとうさまのよろこびは大きかった。口に出してはなにも仰しゃらなかったが、ごようすにはよくあらわれていて、細貝家の日常はいっそう明るく、活気に満ちてゆくようであった。まえにもちょっと触れたと思うが、いまでもおとうさまと良人は、ときどきわたくしの鼓で謡をおうたいになる。もうお二人とも諦めているのだろう、その後は師匠にもつかないので、上達しないばかりでなく、抑揚も間拍子もだんだん怪しくなり、うっかりすると文句まで、あとさきになるようなことがある。