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やぶからし
やぶからし
山本 周五郎
「週刊朝日増刊」朝日新聞社、1959(昭和34)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,476 字 · 44 页
宮参りを済ませて、家へ帰る途中も、帰ってから夕餉の支度をするあいだも、わたくしの頭はすっかり混乱して、どうしても考えをまとめることができなかった。
――あの方が戻って来た。
――五両持ってゆかなければならない。
いなずまの閃きのように、その二つの言葉が、頭の中で繰り返し聞えた。もう一つは、家族の誰にも気づかれてはならない、ということで、胸ぐるしさのため、いまにも叫びだしたくなるのをがまんする辛さは、いまなおはっきり思いだすことができる。ほかにとるべき手段があろうなどとは、考えもしなかった。夜になって少し気持がおちついてからも、云われたお金を持ってゆくこと、そのときよく話しあえば、どうにか無事におさまるだろう、ということを自分に納得させるだけであった。
武家の勝手は表向きと反対に、どこでもぎりぎりいっぱいなものだ。ことに細貝家はお禄高に比べて格式が高いから、ほかの家よりもはるかに出費が嵩む。良人が書院番にあげられたので、僅かながら役料を頂くようになったけれど、それでも、五両という金をないしょで持ち出すことはできなかった。
――これは自分だけで始末しなければならないことだ。