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やぶからし

やぶからし

山本 周五郎

「週刊朝日増刊」朝日新聞社、1959(昭和34)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,476 字 · 44 页

青空文庫

なにしろやぶからしだからな」

「ときに」あの方はすぐに続けた、「昨日の子が二人めなんだね、丈夫そうな可愛い赤んぼじゃないか、おれのあとに来た亭主もいい人間らしいし、さぞ仕合せなこったろうね」

「ひとこと申上げますけれど」

「いや、話すのはおれの番だ」とあの方は首を振った、「おまえは安穏な家と、立派な亭主と、可愛い子供を二人も持っている、そういう仕合せな者は文句を云っちゃあいけねえ、なにか云うとすればこのおれのほうだ」

「いつかいちど」とあの方は大きな物で酒を呷り、おくびをしてから云った、「いつかいちどは聞いてもらいてえと思っていたんだ、うん、あの祝言の晩のことさ」

「そんな話はうかがいたくありません」

「おっと、立っちゃあいけねえ、おれを怒らせちゃあいけねえ、坐ってくんな」あの方の眼が白くなり、歯がむき出された、「――おらあざんげをするんだぜ、あの晩のことは済まなかった、本当に済まなかった、と思ってる、ほんとうだぜ」

どうしたらいいだろう、わたくしはいたたまれなかった。こんなところにながいをしていてはいけない、早く出てゆかなければならない、と思いながら、でもこのまま出てゆけば、あの方がなにをするかもしれない。