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イエスでん

イエス伝

矢内原 忠雄

マルコ伝による

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 220,119 字 · 436 页

青空文庫

そいつが出てくると荒廃が起こる。ダニエル書における「荒すにくむべき者」は紀元前二世紀の半ばごろに出たシリヤの国王アンチオーカス・エピファーネスのことで、彼はユダヤを攻略して政治的に支配し搾取したにとどまらず、宗教的にユダヤ教を圧制し、ついに紀元前百六十八年十二月エルサレム神殿の燔祭を献げる祭壇の上に、ギリシャの神ゼウスの祭壇を置いた。これはユダヤ人から見れば、神殿の凌辱、国威の汚損、言うに忍びざる国辱でありました。ダニエル書はこの時代を背景として、ユダヤ人の信仰を励ますために書かれた黙示文学であります。

アンチオーカス・エピファーネスの圧制に対し、マカベヤ家のユダヤという勇士が奮起してこれを退け、イエス降誕の少し前までユダヤはマカベヤ家の支配の下にあり、ローマの統治もゆるいものでありました。しかるにイエスの死なれる前後からローマの統治はようやく直接かつ強力となり、ついに紀元四十年ごろに至り、カリグラ皇帝は自己の像をばエルサレムの神殿内に建立しようとした。この計画は総督の諫止によって中止せられましたが、皇帝崇拝を強要して神殿の神聖を荒らそうとしたカリグラ帝の意図は、ユダヤ人にとりて大なる衝撃であり、マルコ伝が書かれたころには、まだ人々の記憶に新たなる事件でありました。