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おもいで
ロッパの悲食記
古川 緑波
古川緑波『ロッパの悲食記』。同一底本的分册已合并为一书。收入:想い出、ああ東京は食い倒れ、浅草を食べる、色町洋食、うどんのお化け、甘話休題、牛鍋からすき焼へ、下司味礼賛、神戸、氷屋ぞめき、このたび大阪、清涼飲料、食べたり君よ、駄パンその他、八の字づくし、富士屋ホテル。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,651 字 · 114 页
そして、デザートに出た、ババロアの味、ソーダ水の薄味のレモンのシロップ。
ああ何と美味というもの、ここに尽きるのではないか!
実に、舌もとろける思いで、その後数日間、何を食っても不味かった。
然し、エーワンの料理は、その頃にして、一人前五円以上かかるらしいので、到底その後、自前で食いに行くことは出来なかった。
正直のところ、僕は、ああいう美味いものを毎日、思うさま食えるような身分になりたい。それには、何うしても千円の月収が無ければ駄目だぞ、よし! と発憤したものである。
それから十何年経って、僕は菊池先生の下を離れて、役者になり、何うやら千円の月収を約束されるようになった。
が、何ということであろう。戦争が始まり、食いものは、どんどん無くなり、エーワンも何も、定食は五円以下のマル公となり、巷には、鯨のステーキ、海豚のフライのにおいが、漂うに至った。
文藝春秋社に、先生を訪れて、
「僕あ、ああいう美味いものを毎日食いたいと思って、努力を続け、漸く、それ位のことが出来るような身分になりました。ところが、何うでしょう先生、食うものが世の中から消えてしまいました」