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いっすんぼうし

一寸法師

江戸川 乱歩

「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页

青空文庫

ところが、意外なことは、その最中に、山野夫人が又しても例の異様な男の誘いに応じ、二度目の密会をとげるために、今度は大胆にも昼日中家を外にしたことであった。例によって彼女は片町へ行くといって出たのだが、それを聞いた紋三がもしやと思って、そっと片町の彼女の伯父のところへ電話をかけて問合せた結果、それが分ったのだ。紋三以外にはだれも知る者はなかった。

ところが、丁度その折を選んだ様に、夫人にとって実に危険なことが起った。夫人の秘密は遂に暴露する時が来たかと思われた。

紋三は山野夫人が片町へ行っていないことを電話で確めたけれど、この前の様にすぐ後を追う元気はなかった。一方では夫人の安否が気遣われたが、又一方では、この間の晩の出し抜かれた気持を思い出すと、そうして心配しているのが馬鹿馬鹿しい様でもあった。妙な嫉妬みたいなものが、彼をひどく憂鬱にした。

夫人の行先は中之郷O町の例の家に相違ないのだが、そこへ行って、もしいやなものを見る様だとたまらないと思った。といって夫人の帰るのを書生部屋で山木とにらみ合って待っているのは尚つらい。彼は兎も角山野家を出て、電車道の方へ歩いて行った。