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いっすんぼうし
一寸法師
江戸川 乱歩
「東京朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月20日<br>「大阪朝日新聞」朝日新聞社、1926(大正15)年12月8日~1927(昭和2)年2月21日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,475 字 · 194 页
もうすっかり暗くなった堤の上を、二人はとぼとぼと歩いた。一つは身も心も疲れていたせいもあるが、一つは早く帰って真実に直面するのが恐しく、自然歩みが鈍くなったのだ。そして、何か喋べらなくては淋しくてたまらなかった。
「その実の娘同志が」夫人は語り続けた。「一人の男を、相手もあろうに運転手なんかを、争っているのを知れば、ああした山野のことですから、カッとせずにはいられなかったのでしょう。その心持はよく察しられますわ。地獄の様な気がしたに違いありません。そのふしだらな娘の一人が、やっぱり御自分のふしだらが生んだ罪の子だと思うと、たまらなかったのですわ。考えて見ると山野は本当に気の毒なんです」
「なぜ自首して了われなかったのでしょうね。そんな過失だったら、大した罪にもならないでしょうに」
「だって、人一人殺したんですもの、仮令罪は軽くても、世間に顔向けが出来ませんわ。人一倍世間を気にする主人が、何とかして隠してしまおうとしたのは、ちっとも無理ではないのです。山野自身の安全だけでなくて、家名という様なものを心配したのですわ。なぜといって、もしこのことがパッとすれば、山野のふしだらから、娘達の醜い争いがすっかり知れ渡ってしまうのですから」