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なのかななよ

七日七夜

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1951(昭和26)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,818 字 · 36 页

青空文庫

七

「それあいい、じゃあ旦那これを一つ」

右側の男がそれを取次いで呉れた。

七

「ふざけたことうぬかすな、やいさんぴん、表てへ出ろ」

こうどなる声を聞くまで、昌平は泣きたいような気持で飲み、ひたすら哀しく酔っていた。彼はただ嬉しかった、全身に温たかい、豊かな、愉しいものが溢れるような気持だった。いってみれば長い旅路のあとで、ついに目的地へ到着したような、甘やかな疲れと安息の思いに包まれていた。

――ざまあみろ、有るじゃないか。

彼はこう叫びたかった。

――こんなに温たかい世間が、こんなに善い人たちが、ちゃんと此処にあるじゃないか、ざまあみろ。

彼は三人の兄やあによめに、そう云ってやりたかった。麹町の屋敷ぜんたい、否、侍というものぜんぶに。そして新吉原から始まった、あの狡猾で卑しい女や男たちに向って。かれらは昌平を軽侮し、騙し、裸に剥き、そして罵しり辱しめた。

――本田の家には類のない能無し。

――うろうろするな、すっこんどれ。

兄たちの声がなまなましく聞える。そして家人の眼を忍んで、艶冶な書物を筆写する自分の姿。二十六という年になるまでの、澱んだ饐えたような日々。