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なのかななよ
七日七夜
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1951(昭和26)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,818 字 · 36 页
……お母さま、堪忍して下さい、もうしませんって……」
抑えきれなくなったらしい、千代は泣きだした。自分も母に死なれて、そこはいっそう共鳴したわけかしれないが、両手で顔を掩って、泣きながら、とぎれとぎれに云った。
「あたし一生忘れませんわ、あの声、お母さま堪忍して下さい、もうしません、……貴方の話しがぜんぶ嘘でないってこと、あたし初めてわかりました、……貴方は、いじめられッ子だったんだって」
昌平のつむった眼尻からも、涙がふっと溢れだして、小窓のあかりを映しながら、頬を伝って枕紙へ落ちた。くくと噎びあげる千代の声に和して、煎薬の煮える音が呟やきのように聞えた。
深川仲門前に「仲屋」というたいそう繁昌する居酒屋があった。安永年代の好事家の記録にも載っているが、千代という娘に武家出の養子を取って、ひと頃は「侍酒屋」などともいわれたらしい。土鰌を丸のまま串焼きにし、味噌たれを付けて「どかば」という、つまり土鰌蒲焼の意味だろうが、それを一年中つきだしに使うのが、特徴でもあり評判だったようである。
ずいぶん繁昌して、相当以上に金も出来たらしいが、仲屋はいつまでも居酒屋をやっていた。