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さんねんめ

三年目

山本 周五郎

「雄弁」大日本雄辯會講談社、1941(昭和16)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,214 字 · 22 页

青空文庫

友吉は水を踏んで行った、教えられた大銀杏のところで右へ入る路地がある。ふところから手拭を出して頬冠りをした、端折った裾をきっちり帯へはさんで、匕首はいつでも抜けるように左の袂へ入れた。……路地の中は踝を浸す水で、もう溝板が浮いている、逃げ支度をしている家もあり、畳をあげている家もあった。友吉はその騒ぎを遠い国のことのように聞きながら、なかば夢中で二階家の前まで来ていた。

障子に灯がさしていた。

声は聞えないが、なにか片付けているらしい物音がする、荷物を運び上げてでもいるのか、時々二階の窓の障子へ人影がさし、階段を上り下りする気配がした。

友吉は格子戸を明けた。

「……ごめんください」

「…………」

「ごめんください、角さんはお宅ですか」

はいという返辞が二階でして、足早に下りて来た者がある。……友吉は灯を除けるようにしてじっと見ていた。

下りて来たのはお菊だった。

あのときが十八、だからもう二十一の、すっかり成熟した女になっている、きっちりと帯に緊められた腰のくびれも、浴衣の胸の弾力のあるふくらみも、襷をかけて露になった二の腕の白さも、女のさかりの魅力が匂うようである。