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さんねんめ

三年目

山本 周五郎

「雄弁」大日本雄辯會講談社、1941(昭和16)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,214 字 · 22 页

青空文庫

「ありがとうござんすが……」

お菊と角太郎が夫婦になったという、友吉にとっては信じられないことであったが、いま現に家を尋ねてすかを喰ったばかりなので、もしやという鋭い疑いが胸へつきあげてきた。……それで彼は仁太郎と付合う気になった。

――精しいことが聞けるだろう。

そう思ったのである。

桜橋の河岸っぷちに『川卯』という、ちょっと名の売れた小料理屋がある、仁太郎は馴染とみえていい顔だった。そこで友吉は旅支度を脱ぎ、ざっと風呂をあびて、さっぱりした躰に浴衣を引掛け、堀の見える二階の小座敷で仁太郎と盃を取合った。

「ぜんたい友さん、おめえどうして上方へなんぞ出掛けてったんだね」

銚子を二本、ほろっときはじめたところで仁太郎が話を誘いだした、「……日に四匁稼ぐ職人は百人に一人といわれてる、おめえはその百人に一人の稼ぎ手だ、そいつが、広田屋の亡くなるのと一緒にふいっと上方へ行ったのは訳があるだろう」

「ええ、それにはちょいと身の恥を話さなくちゃあならねえんですが」

「おっと、盃は置かねえことにしよう」

「じつはこうなんです」

仁太郎の云うとおり友吉はいい職人だった。