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まるのうち

丸の内

高浜 虚子

「東京日日新聞」1927(昭和2)年3月15日~31日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,875 字 · 46 页

青空文庫

その他大藩の邸もあるにはあったが大概皆移動している。

わが丸ビルの所は寛永年間に松平新太郎の屋敷に当り、元禄年間は松平内蔵の屋敷と戸田兵部の屋敷に当り、文化年間は溝口駒之介の屋敷に当り、嘉永年間は織田兵部の邸に当っていたようである。

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六十銭のうなどんの食券を女中に渡す。

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その一つの大名屋敷の大いさは今の丸ビルよりはなお大きかったらしい。そうすると土塀か何かをめぐらしたその大邸宅が並んでいたこの丸の内は夜にでもなったら定めて淋しい事であったろう。

その一つの邸のうちには勤番長屋もあったろう。勤番には妻子を連れたものもあろう。又中間若党の類も相応にいたろう。茶坊主、小姓乃至奥女中の類も沢山にいたろう。又家老その他の諸役人もいたろう。そうして大名は芝居でするように、厚座蒲団の上に座ってかたわらに脇息を置いて澄ましていたろう。併しそれ等の人間は皆今の世の人のように、欲望、葛藤、術策、迷い、あきらめ等の渦の中にあったろう。今の世の姿そのままをそこに描き出したような世の中に住まっていたろう。