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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
01 乾雲坤竜の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页
忠相もまた変物泰軒の性格学識をふかく敬愛して初対面から兄弟のように、師弟のように陰に陽に手をかしあってきた仲だったが、四十にして家を成さず去就つねならぬ泰軒の乞食ぶりには忠相もあきれて、ただその端倪すべからざる動静を、よそながら微笑をもって見守るよりほかはなかった。
だから、八代吉宗公に見いだされた忠相が、江戸にでて南町奉行の顕職についたのちも、泰軒はこうして思い出したように訪ねてきては、膝をつき合わしてむかしをしのび世相を談ずる。が、いつも庭から来て庭から去る泰軒は家中の者の眼にすらふれずに、それはあくまでも忠相のこころのなかの畏友にとどまっていたのだった。
それはそれとして。
この秋の夜半。
いま奉行屋敷の奥座敷に忠相と向かいあっている泰軒は、何ごとか古い記憶がよみがえったらしく、いきなり眼をほそくして忠相の顔をのぞいた。
「おぬし、おつる坊はどうした? 相変わらず便りがあるか」
すると老いた忠相が、ちょっと照れたように畳をみつめていたが、
「もう坊でもなかろう。婿をとって二、三人子があるそうな。先日、みごとな松茸を一籠届けてくれた。貴様にもと思ったが分けようにもいどころが知れぬ――」