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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

01 乾雲坤竜の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 340,187 字 · 666 页

青空文庫

この女はこれでおたずね者なのだ――こう思うと源十郎は、自分が絵草紙の世界にでも生きているような気がした。

「姐御、皆さんお帰りです。お供しやしょう」与吉にうながされて、ひとり残っていたお藤は、片手をうしろに膝を立てた。

「そうだねえ。実のない人はいつまで待っていたってしようがない。じゃ、お神輿をあげるとしようか。お殿様おやかましゅうございました。おやすみなさい」

「うむ帰るか」

と源十郎は横になったまんまだ。

食べ荒らした皿小鉢や、倒れた徳利に蒼白い光がさして、畳の目が読める。

軒低く、水のような月のおもてに雁がななめに列なっていた。

与吉がお藤を送って、浅草の家へ帰って行くと、しばらくして、寝ころんでいた源十郎が、むくりと起き上がっておさよを呼んだ。

「はいはい」

と出てきたおさよ婆さん、いつのまにか客が帰ってがらんとしているのにびっくりして、

「おやまあ、皆さまお帰りでござんしたか。ちっとも存じませんで――ここはすぐに片づけますけれど、あのお居間のほうへお床をとっておきましたから」

「まあ、いい、それより、戸締りをしてくれ」

縁の戸袋から雨戸をくり出しかけたおさよの手が、思わず途中で休んでしまう。