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こじきがくせい

乞食学生

太宰 治

「若草」1940(昭和15)年7~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,682 字 · 68 页

青空文庫

ポストの底に、ことり、と幽かな音がする。それっきりである。その後の、悲惨な気持は、比類が無い。

私はその日も、私の見事な一篇の醜作を、駅の前のポストに投函し、急に生きている事がいやになり、懐手して首をうなだれ、足もとの石ころを蹴ころがし蹴ころがしして歩いた。まっすぐに家へ帰る気力も無い。私の家は、この三鷹駅から、三曲りも四曲りもして歩いて二十分以上かかる畑地のまん中に在るのだが、そこには訪ねて来る客も無し、私は仕事でもない限りは、一日いっぱい毛布にくるまって縁側に寝ころんでいて、読書にも疲れて、あくびばかりを連発し、新聞を取り上げ、こども欄の考えもの、亀、鯨、兎、蛙、あざらし、蟻、ペリカン、この七つの中で、卵から生まれるものは何々でしょう、という問題に就いて、ちょっと頭をひねってみたり、それもつまらなくなり、あくびの涙がつつと頬を走って流れても、それにかまわず、ぼんやり庭の向うの麦畑を眺めて、やがて日が暮れるというような、半病人みたいな生活をしているのだから、いま、ただちに勇んで、たのしい我が家に引き返そうという気力も出て来ない。私は、家の方角とは反対の、玉川上水の土堤のほうへ歩いていった。