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こじきがくせい

乞食学生

太宰 治

「若草」1940(昭和15)年7~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,682 字 · 68 页

青空文庫

私と向い合って、熊本君も坐った。やや後れて少年佐伯が食堂の入口に姿を現したと思うと、いきなり、私のほうに風呂敷包みを投げつけ、身を飜して逃げた。私は立ち上って食堂から飛び出し、二、三歩追って、すぐに佐伯の左腕をとらえた。そのまま、ずるずる引きずって食堂へはいった。こんな奴に、ばかにされてたまるか、という野蛮な、動物的な格闘意識が勃然と目ざめ、とかく怯弱な私を、そんなにも敏捷に、ほとんど奇蹟的なくらい頑強に行動させた。佐伯は尚も、のがれようとしていた。

「坐り給え。」私は彼を無理矢理、椅子に坐らせようとした。

佐伯は、一言も発せず、ぶるんと大きく全身をゆすぶって私の手から、のがれた。のがれて直ぐにポケットから、きらりと光るものを取り出し、

「刺すぞ。」と、人が変ったような、かすれた声で言った。私は、流石に、ぎょっとした。殺されるかも知れぬ、と一瞬思った。恐怖の絶頂まで追いつめられると、おのずから空虚な馬鹿笑いを発する癖が、私に在る。なんだか、ぞくぞく可笑しくて、たまらなくなるのだ。胆が太いせいでは無くて、極度の小心者ゆえ、こんな場合ただちに発狂状態に到達してしまうのであるという解釈のほうが、より正しいようである。