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こじきがくせい
乞食学生
「若草」1940(昭和15)年7~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,682 字 · 68 页
」
「事情なんか、どうだっていいじゃないか。僕の出発を、君は喜んでくれないのか? 君は、エゴイストだ。」
「いや、ちがいます。」熊本君も、こんどは敢然と報いた。「僕は、物事を綿密に考えてみたいんだ。納得出来ない祝宴には附和雷同しません。僕は、科学的なんです。」
「ちえっ!」佐伯は、たちまち嘲笑した。「自分を科学的という奴は、きまって科学を知らないんだ。科学への、迷信的なあこがれだ。無学者の証拠さ。」
「よせ、よせ。」私も立上り、「熊本君は、てれているんだ。君の、おくめんも無い感激振りに辟易したんだ。知識人のデリカシイなんだよ。」
「古い型のね。」佐伯は低く附け加えた。
「乾杯します。」と熊本君は、思いつめた果のような口調で言った。「僕は、ビイルを飲むと、くしゃみするんです。僕は、その事を科学的と言ったんです。」
「正確だ。」佐伯は、噴き出した。私も笑った。
熊本君は笑わず、ビイルのコップを手にとって目の高さまで捧げ、それから片手で着物の襟をきちんと掻き合わせて、
「佐伯君の出発を、お祝いいたします。あしたから、また学校へ出て来て下さい。」真剣な、ほろりとするような声であった。