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こじきがくせい

乞食学生

太宰 治

「若草」1940(昭和15)年7~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,682 字 · 68 页

青空文庫

「おい、おい。」重ねて呼ばれて、はっと我に帰った。私は、草原の中に寝ていた。陽は、まだ高い。ひばりの声が聞える。ようやく気が附いた。私は、やはり以前の、井の頭公園の玉川上水の土堤の上に寝そべっていたのである。見ると、少年佐伯は、大学の制服、制帽で、ぴかぴか光る靴をはき、ちゃんと私の枕元に立っている。

「おい、僕は帰るぞ。」と落着いた口調で言い、「君は、眠っちゃったじゃないか。だらしないね。」

「眠った? 僕が?」

「そうさ。可哀そうなアベルの話を聞かせているうちに、君は、ぐうぐう眠っちゃったじゃないか。君は、仙人みたいだったぞ。」

「まさか。」私は淋しく笑った。「ゆうべから、ちっとも寝ないで仕事をしていたものだから、疲れが出ちゃったんだね。永いこと眠っていたかい?」

「なに十分か十五分かな? ああ、寒くなった。僕は、もう帰るぜ。しっけい。」

「待ち給え。」私は、上半身を起して、「君は、高等学校の生徒じゃなかったかね?」

「あたり前さ。大学へはいる迄は、高等学校さ。君は、ほんとうに頭が悪いね。」

「いつから大学生になったんだい?」

「ことしの三月さ。」

「そうかね。君は、佐伯五一郎というんだろう?」