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こじきがくせい

乞食学生

太宰 治

「若草」1940(昭和15)年7~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,682 字 · 68 页

青空文庫

眉は薄く、眼は丸く大きい。口は小さく、顎も短い。色が白いから、それでも可成りの美少年に見える。身長骨骼も尋常である。頭は丸刈りにして、鬚も無いが、でも狭い額には深い皺が三本も、くっきり刻まれて在り、鼻翼の両側にも、皺が重くたるんで、黒い陰影を作っている。どうかすると、猿のように見える。もう少年でないのかも知れない。私の足もとに、どっかり腰をおろして、私の顔を下から覗き、「坐らないかね、君も。そんなに、ふくれていると、君の顔は、さむらいみたいに見えるね。むかしの人の顔だ。足利時代と、桃山時代と、どっちがさきか、知ってるか?」

「知らないよ。」私は、形がつかぬので、腕をうしろに組み、その辺を歩きまわり、ぶっきらぼうな答えかたをしていた。

「じゃ、徳川十代将軍は、誰だか知ってるかい?」

「知らん!」ほんとうに知らないのである。

「なんにも知らないんだなあ。君は、学校の先生じゃないのかい?」

「そんなもんじゃない。僕は、」と言いかけて、少し躊躇したが、ええ、悪びれず言ってしまえと勇をふるって、「小説を書いているんだ。小説家、というもんだ。」言ってしまってから、ひどく尾籠なことを言ったような気がした。