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ひとでなしのこい
人でなしの恋
江戸川 乱歩
「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年10月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,245 字 · 33 页
十
十
その夜、何も知らぬ門野は、又しても私の寐息を窺いながら、雪洞をつけて、縁外の闇へと消えました。申すまでもなく人形とのおう瀬を急ぐのでございます。私は眠ったふりをしながら、そっとその後姿を見送って、一応は小気味のよい様な、しかし又何となく悲しい様な、不思議な感情を味わったことでございます。
人形の死骸を発見した時、あの人はどの様な態度を示すでしょう。異常な恋の恥かしさに、そっと人形のむくろを取り片づけて、そ知らぬふりをしているか、それとも、下手人を探し出して、怒りつけるか、怒りのまま叩かれようと、怒鳴られようと、もしそうであったなら、私はどんなに嬉しかろう。門野が怒るからには、あの人は人形と恋なぞしていなかったしるしなのですもの。私はもう気もそぞろに、じっと耳をすまして、土蔵の中の気勢を窺ったのでございます。
そうして、どれほど待ったことでしょう。待っても待っても、夫は帰って来ないのでございます。壊れた人形を見た上は、蔵の中に何の用事もない筈のあの人が、もういつもほどの時間もたったのになぜ帰って来ないのでしょう。もしかしたら、相手はやっぱり人形ではなくて、生きた人間だったのでありましょうか。