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いまどしんじゅう

今戸心中

広津 柳浪

「文芸倶楽部」1896(明治29)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,688 字 · 74 页

青空文庫

香奠なら生きてるうちのことさ。此糸さん、初紫さん、香奠なら今のうちにおくんなさいよ。ほほ、ほほほほ」

「あ、忘れていたよ。東雲さんとこへちょいと行くんだッけ」と、初緑が坐を立ちながら、「吉里さん、お先きに。花魁、また後で来ますよ」と、早くも小万の室を出た。此糸も立ち、初紫も立ち、千鳥も名山も出て行ッて、ついに小万と吉里と二人になッた。次の間にはお梅が火鉢に炭を加いている。

「小万さん、西宮さんは今日はおいでなさらないの」と、吉里の調子はにわかに変ッて、仔細があるらしく問い掛けた。

「ああ、来ないんだよ。二三日脱されない用があるんだとか言ッていたんだからね。明後日あたりでなくッちゃア、来ないんだろうと思うよ。先日お前さんのことをね、久しく逢わないが、吉里さんはどうしておいでだッて。あの人も苦労性だから、やッぱし気になると見えるよ」

「そう。西宮さんには私しゃ実に顔が合わされないよ。だがね、今日は急に西宮さんに逢いたくなッてね……。二三日おいでなさらないんじゃア……。今度おいでなさッたらね、私がこう言ッてたッて、後生だから話しておいておくんなさいよ」

「ああ、今度来なすッたら、知らせて上げるから、遊びにおいでよ」