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びぜんめいきゅうでん

備前名弓伝

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,649 字 · 50 页

青空文庫

――なんだこれは、こんな勤めならなにもおれでなくても誰でも勤まるではないか、おれは一刀流の腕で召抱えられたのだ、又召抱えるからは殿も一刀流を役だてるつもりであろう。こんなことをさせておくのは宝を砂中に捨てておくようなものではないか。そういう不平が絶えず頭から離れない。こういう風に自分を信じ切っている人間は、他人の思惑等は分らないもので、何事もおれがおれがと自分ばかり中心に物事を考える。

都合のいい考え方で折をうかがっていた所へ三之丞の矢一筋という問題が起こった。これだと思ったから無理に喧嘩にして、勝負にもみごとに勝った幸之進。――今度こそおれの腕が分ったろう、なんとかお沙汰があるに違いない。

心ひそかに期待しながら、周囲の噂に耳を澄ましている。しかし五日たち十日たったが、別になんのお沙汰もないし、主君がどう思っているかという噂も聞かない、かえって三之丞が短刀を拝領したという評判が耳に入った。これではかねて計ったこととは逆である。――それが事実なら捨て置けんぞ。おのれの方がよっぽど捨て置けない。いらいらしはじめた幸之進、ある日城中の長廊下で三之丞と出会ったが、早速つかまえた。