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ひかりあういのち

光り合ういのち

倉田 百三

「いのち」1937(昭和12)年2月号から連載

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,439 字 · 263 页

青空文庫

そんなことを色々とくり返して暁を迎えてしまった。

来るにしても朝来るような事はないと思っても、心配で朝から千光寺へ行って見た。だが彼女は来なかった。午後に又いつもの円亭へ行って見た。長く待っても彼女は来なかった。円亭の傍には百日紅が咲いて、燕が飛んでいた。私は淋しくなって帰ろうと思った。

と日傘で顔をかくして彼の女が登って来た。彼女は日傘をたたむと息苦しそうに側に腰かけた。

「有り難う」

と私は言って面を赤らめた。

二人とも真面に見合わずにしばらく黙っていた。

「またお芝居へ行きますか」

と私は沈黙を破った。

「もう行きません。先生にとめられましたもの」

「夜ふかしになりますね」

と私は彼女の顔を見た。蚕のような顔色が頬のところだけ赤みがさしていた。

「熱がありますの」

と彼女は両手を頬にあてた。「一寸来ましたの。直ぐに帰らなくては」

「それはいけません。すぐお帰んなさい」

「これあげましょう」

と彼女はとき色のハンカチで包んだ小形のものをくれた。

「ありがとう」

私が受取ると、彼の女は赤くなって、「さようなら」と言い捨てたまま、日傘をとると、逃げるように坂を下りて行った。