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ひかりあういのち
光り合ういのち
倉田 百三
「いのち」1937(昭和12)年2月号から連載
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,439 字 · 263 页
私と芳正君とに色々題を出して質問したり、字を書かせたりした。そしていろいろ批評した。
「とてもお上手ですこと。坊ちゃんの方が上手ですわ。「交」の字だけは芳正の方がいいかも知れないけど……」
「朱に交われば赤くなる」という清書をひろげて、夫人はこんな風に言うのだ。自分の子の方を決してほめず、それかと言って子供をかばっている母らしい様子はすべてのことで表われていた。
幻燈機械のあるのはこの家だけだった。義家が馬に乗って士卒をつれて秋草の野に立ってる向こうに雁の列が見えてる絵が出た。説明者は夫人だったが、ちょうど帰って来た父親は酒気を帯びていたが、大きな声で、
「雁の乱るるは伏兵なり」
と叫んだ。それはしかしよく調和していた。
波止場に船。大勢の見送り人がハンカチを振ってる絵が映った。母夫人は感激的な声で、
「太郎は勉強して偉くなり、今や選ばれて、海外留学に、出帆するのであります。皆さんもこんなになるよう、よく勉強せねばなりません」
私は青雲の志ということを考えると、いつでもこの幻燈の絵が目の前に浮ぶのだ。
こうした教育の下にあって芳正君は秀才にならねばならぬ筈だが、どうしたものか天分がなかった。