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こごえるおんな

凍える女

小川 未明

「三田文學」1912(明治45)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,949 字 · 20 页

青空文庫

もう自分の住んでいた村が彼方に黒くなって霞んでいる。而して近隣の村々が、彼方にも、此方にも黒くなってこんもりとした森の中にしずかに溜息を洩らしているように見られた。樺色に、褐色に、黄色に、すがれて行くさまざまの林の色は、次第に黒ずんで来た。見渡す限り、人影もなくて、ただ刈り尽された田や圃は、漠然として目に見えるもの、すべての自然は鬱いだ顔付をしている。

おあいは、路傍の、石の上に腰をかけて、背から、乳飲児を下して乳を含めた。児は、乳房にしがみついて乳を吸いはじめた。けれど、あわれな、おあいの頬の肉は落ちて、乳はしなびていて思うように出なかったので児は、やはり咽びつづけて時々、声を張り上げて泣き出したのである。おあいは、この痛ましい、寒い自然に対して、途方に暮れているという風であった。

今にでも降り出して来そうな空を仰いで、頭をあげて見廻していたが、折々、身を切るような風が広野を吹き渡って、彼方にも、此方にも、ぱらぱらと黄色な、枯れた木の葉のひとしきり散るのが見られたのである。而して、児の声は、風のためにかすれて眼から頬に流るる涙が凍るかと思われた。