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しょや

初夜

山本 周五郎

「週刊朝日春季増刊号」朝日新聞社、1954(昭和29)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,384 字 · 35 页

青空文庫

「そうはしない筈だ」と代二郎が云った、「除村はそうはしない筈だ、除村は一藩の急を救うために小森※(「金+完」、第4水準2-90-87)蔵を斬った、他の二人は討ち損じたが、小森を仕止めたことで奸悪の所在をはっきりさせ、全藩に侍の本分と決意のほどを示した、除村は目的を達したのだ、城下に乱を起こし、多くの人を謀反の罪に巻きこむようなことはしないはずだ、断じて除村はそんな暴挙はしないはずだ」

久良馬が初めて代二郎を見た。それまでじっと(またたくことの少ない眼で)井関をにらんでいて、怯えあがった井関が全身で震えているのを慥かめて、その眼をようやく代二郎に向けた。代二郎もその眼を静かに見返した。

「それで」と久良馬が云った、「――おれにどうしろというのだ」

「まずこの人たちを解散させてくれ」

「われわれは御免です」と丸茂源吾が云った、「われわれは生死ともに先生といっしょです」

すると全部の者が口ぐちにどなりだした。久良馬は大喝した、少ししゃがれた、よく徹る声で、玄関の天床がびんと反響した。

「脇屋の言葉はもっともだ、おれの目的は十分に達した」と久良馬は云った、「――二人を討ちもらしたうえに、討手を向けられると思ったからひと当てやるつもりだった、しかし脇屋が上使として来た以上もうすることはない、みんなその男を見ろ」