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しょや

初夜

山本 周五郎

「週刊朝日春季増刊号」朝日新聞社、1954(昭和29)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,384 字 · 35 页

青空文庫

――代二郎さんはなかなか眼が高いのね、気性がいいばかりでなく、あのひとはいまに縹緻もよくなりますよ。

久良馬は妹のことをいつも「栗」と呼んでいた。色が黒くてちんまりしていたからであろう、そのことを話すと茂登女は笑ったが、縹緻よしになるという主張は曲げなかった。

婚約ができてからすぐ、久良馬は彼を湯の山へ遊びに伴れだした。

――泊って来ますが御心配なく。

久良馬は代二郎の父にそう断わった。父の唯右衛門はまだ存命ちゅうで、「泊りがけ」という意味がわかったのだろう、ひどく渋い顔をしたが、いけないとは云わなかった。湯の山というのは城下から北へ二里ばかり、峠を一つ越した山峡の湯治場で妓楼もあるし「湯汲み」と称する女たちがいて、近国からも客の集まる繁昌な場所であった。

――脇屋のふっきれないのは女を知らないからだ、今日はおれが男にしてやるよ。

久良馬はそう云った。代二郎は「へえ」といった。

――自分の妹婿に売女を抱かせようというのか。

――妹婿になる人間だからさ。

こう云って久良馬はにやっとした。それから例の「売女を抱くことは、――」が始まったのである。代二郎は遊蕩しないことが美徳だと思ったことはない。