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なんきんむしさつじんじけん

南京虫殺人事件

坂口 安吾

「キング 第二九巻第五号」1953(昭和28)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,660 字 · 26 页

青空文庫

「そう。もう半年もずッと台湾へ行ってるのです。ですが、乱世のことですから、国際人はたいがい神出鬼没らしいわね。ひょッとすると、私の知らないうちに、日本に戻っているのかも知れないわ。もしも父がその闖入者なら、年齢は六十ぐらい、銀髪で五尺五寸ぐらいの優さ男です」

「容疑者の年齢は三十ぐらい、身長は五尺三寸以下ぐらいという話なのです」

「それじゃ、父じゃないわ。身長はとにかく、年齢はいつわれないでしょうから」

「あの晩誰かが邸内に闖入した気配をお気づきになりませんでしたか」

「あなた方が庭を探しまわるまで、特に気づいたことはなかったようです。読書にふけっていましたから」

「私たちが立ち去った後は?」

「さア。それも、ありませんね」

百合子の質問は、そこまでで種が切れてしまった。こんな清楚な可憐な令嬢に、得体の知れない犯人のことで、これ以上の質問はムダというものだ。

しかし、最後に、異常な勇気をふるい起して、思いきって、きいた。

「こんな質問は本当に礼儀知らずとお思いでしょうが、さッき乱世と仰有いましたが、それに免じて許して下さいませ。実はこの邸内へ逃げこんだ容疑者というのは、密輸品売買の容疑者なのです。