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なんきんむしさつじんじけん

南京虫殺人事件

坂口 安吾

「キング 第二九巻第五号」1953(昭和28)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,660 字 · 26 页

青空文庫

なぜ猛犬が闖入者を襲わなかったかという素敵な疑問から出発してさ」

「素敵な疑問だなんて、お父さんたら、からかってるのね。犬の位置の反対側へ闖入者がとび降りた場合、広い邸内だから、犬も気がつかないだろうッて言ったくせに」

「そうは云ったさ。しかし、そのあとで気がついたのだ。どうやら、お前の疑問は一番急所に近づいているんじゃないかということにね」

「むしろ一番急所を外れていたのよ。あんまり尤もらしいのは、偶然という大事な現実を忘れさせる怖れがあるわ」

父は切なげに、首をふった。

「オレはお前の身が心配で、お前が陳の邸から出てくるまでというもの、この事件のためではなしに、お前の身のために、この事件について考えた。そのために、今まで捉われていて気づかなかった怖しいことに気がついたのさ。お前の話をきいてから、いよいよその確信が深くなった。さ、おいで。オレの確信をたしかめるのだ」

「どこへ行くのです」

「安心おしよ。陳の邸じゃない。警察へ行くのだ。そして、お前に見せたいものがあるのだよ」

父と娘は警察へ行った。そして父が娘をつれて行ったのは、この事件の証拠品の前である。