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るそんのつぼ
呂宋の壺
久生 十蘭
「オール讀物」1957(昭和32)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,375 字 · 36 页
慶長十六年五月、惟新公からだしぬけに御用召があった。吉之丞が玉里の隠居所へ罷り出ると、惟新公は、
「吉之丞、呂宋へ行って来い」と、いきなりいった。
吉之丞は南蛮貿易のおゆるしが出るのだと思い、勇みたってたずねた。
「御交易の作事をいたすのでござりましょうか」
「いや、壺をとりに行くのじゃ。それについて、なにかと便宜もあろうから、吉利支丹になるがええ……くわしいことは拙斎の入道に言うておいた。大口へ行って聞いてくれい。退ってもええぞ」
入道して拙斎。鬼武蔵といわれた新納武蔵の城は、鹿児島の北十里、伊佐郡の大口村にある。
隠居所から退ると、吉之丞はその足で大口村へ行った。城に上り、取次を通して挨拶をすると、すぐ居間に通された。
「なんでん、くわしいことは、ああたさまに聞けという仰せですけん、伺いに罷りでました」
勇武の士だが、すぐれた歌人でもある拙斎は、つるりと禿げあがった法師頭を撫でながら、
「ご隠居は、ときどき難題を出されるで」というと、大きな声で笑った。
「よしよし、謎ときをしてつかわす。まあ、聞けえ、こういうわけじゃ」
口切りの茶の湯に葉茶壺はなくてはならないものだが、なかでも呂宋焼の壺が名品ということになっている。