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わし
和紙
東野辺 薫
「東北文學」1943(昭和18)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,557 字 · 70 页
いざとなると自分ではくそ度胸とひそかに呼んでいるものが、妙に肚に据ってくるのであって、この時も、少し大袈裟に言うならば、たしかにいざという場合にのっぴきならず当面したことになったのである。こうなれば、弟の思惑などを考慮する必要もなかったし、両親がどんな文句を並べてみても、つまりは納まるところに納まるほかはないわけだった。
「何ぼか今までひとりで心配してたべが、決してはァ悪いようにはしねえで。」
来るみちみちも、今の今まで、弟の女の呼び出しを不安にも迷惑にも思い、一度会っただけの相手と、一体どんな風に応対したらいいものかと、そんなことをさえ気に病んで来たとは、まるで別人の平静さで友太は切り出すことが出来た。
「すみません、兄さんには御迷惑ばかりかけまして……。」
としゑは羽織の襟をかき合わせるようにした。須賀川町にいる両親にも無論知れてしまった。相手が出征兵なので事を荒立てないではいるが、生れる前にはちゃんとした話をきめて置けと、厳しく申し渡された。先月で専売局の勤めも止して、工場の寄宿舎を出た弟と一緒に間借をした。少しは貯金もあるし、決して生活費をどうこういうつもりはないので、ただ、このままでは父の知れない子を産むことになるからと、これはいかにも言い悪くそうにした。