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わし

和紙

東野辺 薫

「東北文學」1943(昭和18)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,557 字 · 70 页

青空文庫

だった。彼等があてと呼んでいる藁を固く束ねた台にのせて、一本一本鉋丁でしごき除るので紙漉きの工程から言えば、これが最初の作業であった。楮の不足で、三四年前からは桑皮が大分かてに使われるようになっていた。しごき除った粗皮も、そのまま捨てられるわけではなく、それはそれで筋紙(包み紙)などの材料になるのであった。

丸々と着ぶくれた全家族が炉を囲んで、身の囲りを剥ぎ除った粗皮に埋めながらの夜業である。村の子供達は、国民学校に入る頃からこの夜業をさせられた。約六百匁の黒楮の束を、大人だったら一晩に四五把は仕上げるし、一年生の子供でも、どうやら一把ぐらいはやってのけた。が、燭光の弱い電燈をつけているうえに、焚火は始終煙りがちなので、子供達はいつとはなしに、大てい眼を痛めてしまうのだった。国民学校の生徒で、トラホームに罹っているものが、附近の村々の約五倍にも達していると、八軒町から来る校医がいつも衛生講話でくり返した。感心なことに高等科に入ってからの惣三は、夜業を終えて寝る前に、必ず眼を洗うことを忘れなかった。おしゃれの惣三といつもせんに冷かされながらも、トラホーム患者はどこの工場でも嫌がるときいてからの、これは惣三にとって一生懸命の用心だった。