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わし

和紙

東野辺 薫

「東北文學」1943(昭和18)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,557 字 · 70 页

青空文庫

毎晩の請負になっている四把の仕事を仕上げて、よしとせんが奥の寝部屋に入ってからも、いつまでも硼酸水の土瓶に顔をくッつけている惣三を、この夜の友太は、いらいらする気持で、おい、早く寝ろやと促した。

寝間がひっそりとなるのを待ちながら、辛うじて針が見えるまで黒く煤けた時計を仰ぐと、十時半を過ぎている。一時間以上は進んでいたから、正午では九時半とちょっとであろう。村の風習で、どこの家でも、正確な時刻より一時間か甚だしくは二時間近くも進ませて置かないと承知しない。正確な時刻を正午と称して、ラジオのある家でもそれはそれなりの時刻として、時間的二重生活に一向平気であった。正午というのがちょうど十二時を指すのではなく、正確な時刻という意味に使われているのも、思えばおかしなことであった。

「お母さ、味噌湯つくって貰うべかな。……お父さもどうだべ? 大ていきまったんでねえかなん?」

土間の奥にしつらえたかまどの前に蹲ったまま、黙りこくった顔の半面を赤くほ照らして楮煮をしていた父は、ん、どうやらきまったようだと呟くと、ゆっくりと腰をのばしながら釜の蓋を少しずらして、上半身にからみつく湯気をすかすように覗くのだった。