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わし

和紙

東野辺 薫

「東北文學」1943(昭和18)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,557 字 · 70 页

青空文庫

しかし、一重ながら同じふっくりと開く黄色い花は、紅の勝った紫色の花底を覗くまでもなく、友太にネリの畑を髣髴させたのであった。

ネリか、んだでなと呟きながら土間に降り立った友太は、その頭の上に土のままで吊り下げて置く、残っているネリの束を仰いだ。友太の家の一年の消費量は約八十貫で、作付けの畑は三畝かそこらで間に合った。ただ、加里、燐酸などの肥料の入手は年毎に難しくなってはいたが、ネリがなければ紙にはならないので、村の人達は血眼で作るのだった。それと張り合って今まで通り作ったところで、友太が居ないからには、腐らすだけのことであるのは目に見えている。それなのに、今までの半分も要らないぞと言い切ってしまえない未練がましさで、友太はいつまでも梁を仰いでいた。――戦場の言語に絶したあらゆる苛烈さを、友太はすでに知っていた。彼は今日再びその兵隊にかえったのである。銃剣を執って弾丸の中を進むだけが総てであって、それ以外の一切は関わりのない瑣末事になりおおせようとしている今、そういう彼から他愛もなく遊離した、ネリの作付けに煩い迷う別の心を、友太は苛立たしくも自分で持てあつかいかねるのであった。