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わし

和紙

東野辺 薫

「東北文學」1943(昭和18)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,557 字 · 70 页

青空文庫

謂わゆる「流し漉き」と呼ばれる方法だった。紙の種類によって、簀と従って簀框の大きさは多少違った。やがて乾上ってから、障子紙なら二枚に、半紙だったら四枚にと截断されるのである。

「兄ちゃ、ひるまんま(昼食)だよォ。」

漉屋の外から妹のせんに呼ばれたのをしおに、友太は仕事を切り上げた。それでも九槽は漉き上げていた。あとの分を取りかえすには、どうしても三晩の夜業になるだろう。ばね竹の紐から簀框を外して、皸だらけの手を揉んでいると、今漉き重ねたばかりの紙から、しきりにしたたり落ちる滴の音が、はじめて耳に入ってくるのであった。これも習慣になっている、友太は小屋を出がけに、奥の圧搾器の捻子を一締めした。

自分の恥しい隠しごとではないので、何もびくびくするには及ばないとは思いながら、やはり胸がつかえた気持で昼飯もいつものようには食えずに友太は家を出た。ちょっとしたことにぶつかると、我れながら情けなく動揺するのであった。出征中は、それは自分だけの自惚ではなく、小隊長からもたしかに賞められたので、隊の誰にもひけをとらないだけに大胆で勇敢であったのが、帰還した途端に、またもとの意気地なさにかえっているのが自分でも歯がゆかった。