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あづまばし

問はずがたり・吾妻橋 他十六篇

永井 荷風

永井荷風『問はずがたり・吾妻橋 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:吾妻橋、浅草むかしばなし、亜米利加の思出、或夜、噂ばなし、買出し、心づくし、細雪妄評、出版屋惣まくり、にぎり飯、冬日の窓、墓畔の梅、羊羹、老人、渡鳥いつかへる。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,586 字 · 159 页

青空文庫

松林の中に門の屋根を聳かした法華寺で、ここも盆の墓参をするらしい人が引きつづき出入をしていた。すぐに庫裏の玄関先へ歩み寄ると、折よく住職らしい年配の坊さんが今がた配達されたらしい郵便物を見ながら立っていたので、

「一寸伺いますが、アノ、アノ、田村と云う女のお墓で御在ますが、アノ、それはこちらのお寺で御在ましょうか。」と道子は滞り勝ちにきいて見た。

坊さんは一向心当りがないと云うような面持をしながら、それでも笑顔をつくり、

「御命日はいつ頃です。お葬式は何年程前でした。」

道子は小岩の色町へ身売をした時の年季と、電話の周旋屋と一緒に暮した月日とを胸の中に数え返しながら、

「お葬式をしたのは五年ばかり前で、お正月もまだ寒い時分でした。松戸の陣前にいる田村という百姓家の人がお葬式をしてくれたんで御在ますが……。」

「ああそうですか。今調べて見ましょう。鳥渡待って下さい。そこへ御掛けなさい。」

坊さんは日本紙を横綴にした帳面を繰り開きながら、出て来て、「わかりました。わかりましたが、お墓はそれなり何のおたよりがないので、そのままにしてあります。お墓はありません。