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よねんかん
四年間
山本 周五郎
「新青年」博文館、1946(昭和21)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,135 字 · 36 页
七
「そうだ、人間はみんな死ぬんだ、どうしたって死からのがれるわけにはいかないんだ」
その夜、書斎で日記帖をひらきながら、信三は暗澹たる気持でそう呟やいた、
「……だがなんという皮肉だろう、死を宣告された自分が生きていて、研究の継続を頼もうと思っていた橋本が死ぬなんて、これで自分の仕事も完成されずに葬られてしまうんだ、いっそさっぱりしてそのほうがいいかもしれない、なにもかも消え去って跡をのこさないほうが……」
省吾の初七日がすんでから間もないある夜、信三は未亡人の松代を書斎へ呼んだ。梅雨期のことで、音もなく雨のけぶる宵だった、松代は椅子に浅く掛け、泣きはらした眼を伏せて、つきあげてくる悲嘆をけんめいに抑えているようすだった。
「僕にはなんともお悔みの申しようがありません、またそんなことは申し上げる必要もないと思います」
彼は呟やくような低い声でそう云った、
「……来ていただいたのは、じつは他にお伝えしたいことがあったからなんです」
七
「橋本君は僕の研究の犠牲になってくれたんです、だから僕としてはあなたやお子さん達の面倒をみる責任があるんですが、ちょっと事情があって僕にはその責任を果たすことができないんです」