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よねんかん

四年間

山本 周五郎

「新青年」博文館、1946(昭和21)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,135 字 · 36 页

青空文庫

八

けれども信三はそのすきを与えなかった。このごろでは昼のうち寝室から出ないことが習慣のようになり、夜は書斎の灯がつきとおしていた。昌子を避ける態度はもう隠そうともせず、話しかけてもはかばかしい返事の聞けないことが多かった。

こうしているうちに梅雨があがり灼きつけるような真夏の日がおとずれた。

八

人間はどんな厭うべき状態にも慣れるものだという、信三は自分の心理を克明にあばき、客観的に記述することで恐怖に対する慣性をつくろうと思った。だがそれは不可能だった、あらゆる厭うべき条件には慣れても、人間が死の恐怖に慣れることはできない、生存に対する執着の烈しさとその根本的なことを証明するかのように、それは息むひまなく観念を組み敷き、ひきずりまわした。

彼はいつも机の上に拳銃を置いているが、その恐怖が緩和されないかぎり、銃口を額に当てることはできないということを知っている、自殺というものは衝動的であるか、さもなければ虚無と倦怠の果てかである、医者から四年間と宣告されたときすぐやればできたろう、しかしその機会をつかみそこねた現在では第二のばあいを待つより仕方がなかった。