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よねんかん

四年間

山本 周五郎

「新青年」博文館、1946(昭和21)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,135 字 · 36 页

青空文庫

三

「いやなにもない」信三は、そのときはじめて昌子を見た、焦点のくるったような、ひどく空虚なひとみだった、そしてなにかひじょうに狼狽したように、あわててそむき、「……じゃ、時間の約束があるから」と云い、まるで逃げるような大股でさっさと潮見坂のほうへ去っていった。

昌子はいいようもなくがっかりした、抑えようもなく悲しい、裏切られでもしたような気持だった、右手に持っている手提鞄が急に重くなり、なが湯のあとのように体がだるくなるのを感じた。……そして無意識に改札口のほうへ歩きだしたとき「橋本君」とうしろから呼び止められた、びっくりしてふり返ると信三だった、走って来たのだろう、汗ばんだ顔をして、にらむようにこっちを見た。

「かんにんしてくれたまえ、本当にぬけられなくなったんだから、すまないが気を悪くしないようにね」そして、昌子の答えは待たずに引き返していった。

三

茅ヶ崎の家へ帰ると、庭の砂場で遊んでいた甥と姪がとんで来た。兄嫁の松代は夕餉のしたくをしていたが、子供たちの声を聞いて不審そうに出て来た。

「まあどうなすったの、旅行はおやめ……」

「ただいま、ええ急に村野先生のご都合が悪くなりましたの、お兄さまは」