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よねんかん
四年間
山本 周五郎
「新青年」博文館、1946(昭和21)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,135 字 · 36 页
死の恐怖はそのまま生存への烈しい欲求である、橋本省吾の死はいっときだけ恐怖心をしずめてくれたが、間もなく倍のちからで盛り返してきた、「生きたい」という執着、「愛したい」という欲望が片ときもやすまず彼を支配し続けた。
午後にはげしい雷雨があってから、秋のようにさわやかな風のわたる宵のことだった。信三は夕食のあとで珍しく海辺へ散歩に出てみた、十七日ほどの月が、ちょうど中天にあって、渚のぬれた砂地にまばゆいほどの光を映していた。……しかし彼はすぐに散歩をやめなければならなかった、砂浜のそこここに、より添って坐ったり、腕を組んで歩いたりする若い男女が多く、あまえたささやきごえや、唆られるような含み笑いが耳につき、それが自分のみじめさをいっそう際だたせるように思えた。――彼らもいつかは死ぬだろう、しかし今は生きている、命に満ち充ちて愛する者とあんなに強く結びついて、そう考えると到底ながくは居たたまれず、追いたてられるような気持で家へ帰った。書斎にはいった彼は、その他にすることがないかのように、机のひきだしから日記帖をとりだそうとした、しかしひきだしの中にはなかった。