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よっかのあやめ
四日のあやめ
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,200 字 · 38 页
千世はこの五大家へ嫁して来て一年あまりになるが、まだ実家の江木にいるじぶんからその噂を聞いていた。一方には「そんな事は起こらないだろう」という評もあった。現に実家の兄の江木重三郎もその一人であった。
――噂がこんなに弘まってしまうと、その噂が中和剤になって、そのこと自体は却って起こりにくくなるものだ。
兄はそう云っていた。だが、ついにそれが事実になったのである。良人の五大主税介は隈江流という刀法の達者で、藩の道場「精明館」の師範をしていた。徒士組との決闘になれば、彼は馬廻りの中心となり先鋒となることは必至である。とすれば、双方で何十人という多勢が斬りむすび、その一方の中心となり先鋒になるとすれば、……千世は身ぶるいをした。
「いいえ、それが怖ろしいのではない」と彼女はふるえながら呟いた、「良人が傷ついたり、もしかすると斬り死にをするかもしれないということは怖ろしい、けれどもそれだけではない、もっと大事なこと、もっと恐れなければならないことがほかにある、慥かにあるような気がする、たとえば、……たとえば、――たとえばその衝突が、私闘だということなど」
千世は吃驚したように鏡の蓋をした。