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じごくふうけい
地獄風景
江戸川 乱歩
「江戸川乱歩全集付録冊子 探偵趣味」平凡社、1931(昭和6)年5月10日~7月10日、9月10日~1932(昭和7)年1月8日、3月10日<br>メリー・ゴー・ラウンド以下「江戸川乱歩全集 第十一巻」平凡社、1932(昭和7)年4月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 53,774 字 · 108 页
すると、湯本の方でもその一瞥を予期していたかの如く、ジロジロと刑事を睨み返した。
「こいつ、俺を疑っているな」
という顔だ。
「あの男は前科者でしたね」
刑事がソッと治良右衛門に囁いた。
「イヤ、併し、決して人を殺す様な人物ではありません」
治良右衛門は、又してもとりなし顔に囁き返した。実際、前科者だからと云って、まさか湯本が人殺しをする筈もないのだ。
こんな風にして、何とも形容し難い、奇妙な晩餐がすんだ。結局木島刑事は、誰の顔からも、疑わしい色を読み取ることが出来なかった。皆青ざめた厳粛な表情をしていた。併し一人としてオドオドしている者はなかった。
イヤ、本当は一人丈け、ソワソワと落ちつきのない様子をしていた男がある。それがまだ小さな子供であった為、誰も、刑事さえも、殊更ら疑いの目を向ける様なことはなかったけれど、三谷二郎少年の様子は、如何にも変であった。
彼は食慾もないらしく、皿に手をつけ様ともせず、青ざめて、オドオドとあたりの人々の顔を盗見て、座にも耐え難い様子であった。
一体どうしたというのだろう。まさかこの少年がちま子の背中へ短刀を突き通した下手人とも思われぬが。